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盛岡地方裁判所 昭和27年(行)20号 判決

原告 五日市栄寿

被告 国・岩手県知事・長谷川清治

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告岩手県知事が昭和二十二年十一月二十三日岩手は第三六四号買収令書により岩手県二戸郡金田一村大字金田一字大沼二十三番田一反四畝十歩につきなした買収処分は無効なることを確認する。被告国は右土地に対する盛岡地方法務局二戸支局受附昭和二十四年十一月十七日第七八六号による保存登記の抹消登記手続をなすべし。被告長谷川清治は右土地に対する前同支局受附昭和二十四年十二月十三日第九一五号による所有権移転登記の抹消登記手続をなすべし。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、右原告主張の土地は原告の所有であるところ、訴外金田一村農地委員会は昭和二十二年八月二十四日これにつき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立し、次いで被告岩手県知事は所定の承認手続を経て同年十一月二十三日これが買収令書を発行し、右令書は同年十二月一日原告に交付された。しかしながら右土地は昭和十八年春より耕地を廃止して養鯉場となし、居村金田一村農業会に賃貸し、同農業会がこれに鯉を放つて飼育していたが、同二十年四月一日右土地を岩手県水産課に対し期限は同二十三年三月三十一日まで、賃料は一箇年金二百五十円の約束で賃貸し、同水産課において前同様これを養鯉場として使用し、その約二分の一は土を約二尺の深さに堀り下げ池となして親鯉を放し、他の約二分の一は水田ようの形態を残したまま稚鯉を育成する場所としたが、ただそれに差支ない限りにおいて同村大字金田一字湯田部落の農業実行組合において同水産課の依頼により右賃貸期限までこの部分に稲を植附け耕作していたにすぎないものであるから、前記買収当時右土地は耕作の目的に供されていたものではなく、右水産課の養鯉の目的に供されていたものというべきであり、小作農地でなかつたこと極めて明瞭である。従つてこれを小作地であるとしてなした被告岩手県知事の買収処分は事実誤認に出でたものであつて法律上当然無効のものといわなければならない。しかしてこの買収処分に基き右土地につき前記原告主張の被告国に対する所有権保存登記手続を、被告長谷川清治に対する所有権移転登記手続を順次なしたものであるから、右買収処分が無効である以上これらの登記も亦無効のものといわなければならない。よつて被告岩手県知事に対しては右買収処分の無効確認を、被告国及び長谷川に対してはそれぞれ右各登記の抹消登記手続を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告主張の土地につき原告主張どおりの経過で買収処分がなされ、その令書が原告主張の日に原告に交付されたこと、原告がその主張の頃その主張の各相手方に対してその主張どおりの約定で右土地を賃貸したこと並びに右買収処分に基き右土地につき原告主張のような各登記が被告国及び長谷川名義に順次なされたことはいずれも認めるが、その余の事実は争う。そもそも右土地は買収計画樹立当時岩手県水産課が稲田養鯉の普及と奨励のため原告より賃借し、その内約八畝歩だけを約一尺五寸の深さにしてこれに親鯉を養い、その他の部分には水稲を植えていたのであるから、使用目的を変更し水田を廃して養鯉池としたものではないし、又親鯉を養つた右八畝歩も技術上容易に原状に回復し水田として利用し得る状況にあつたのである。従つて本件土地はその全体から観察すればこれを耕作の用に供する水田すなわち小作農地と見るべきものであるから、これを自創法第三条第一項第二号に該当するものとして買収したとしてもなんら違法ではない。仮に右買収処分に対象を誤認した違法の点があつたとしても、その瑕疵は明白且つ重大なものとはいえないから当然無効とはならないと陳述した。(立証省略)

三、理  由

訴外金田一村農地委員会が昭和二十二年八月二十四日本件土地につき自創法第三条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立し、次いで被告岩手県知事が所定の承認手続を経て同年十一月二十三日これが買収令書を発行し、右令書が同年十二月一日原告に交付されたことは当事者間に争がない。

そこで本件土地が自創法第三条第一項第二号にいう小作農地に該当するかどうかについて按ずるに、本件土地が少くとも昭和十八年春まで水田であつたこと及び原告がこれをその頃より居村金田一村農業会に賃貸し、更に同二十年四月一日岩手県水産課に原告主張どおりの約定で賃貸したことは当事者間に争がなく、いずれも成立に争ない甲第三号証、第四号証の一、二、第五号証及び乙第二号証(ただし各記載内容中後記認定に副わない部分は信用しない)並びに証人長谷川武男及び五日市千代松の各証言(ただし長谷川の分については後記認定に副わない部分は信用しない)を綜合すると、右金田一村農業会及び岩手県水産課は右賃借当時いずれも本件土地において稲田養鯉事業を経営していたが、同水産課においてはその管理を被告長谷川に委嘱していたこと、右農業会の経営当時も本件土地の一部を大沼栄治外一名が田として耕作していたが、右水産課の経営当時は本件土地の内約八畝歩を深さ約一尺五寸の池としてこれに親鯉を放し、その余の部分は田の形態を残したまま稚鯉の孵化場とし、これには管理人たる被告長谷川が勝手に同村湯田農事実行組合員の手を借りて普通より疎な間隔で稲を植附け、その収穫米は同組合員等の集りの際の共同の用に供していたこと及び右賃借期限後は右水産課において本件土地の養鯉の経営乃至その整理に無関心でおるうち、原告の縁者等が前記池の部分を同所の畦土を用いて埋め、昭和二十三年度は同人等が、同二十四年度以降は被告長谷川が耕作し通常の収穫をあげていることがそれぞれ認められ、他に右認定を動かすに足る証拠がない。しかして以上認定の事実関係、殊に本件土地が稲田利用の養鯉場として使用されたのはごく限られた期間であつて、その間本件土地の半分に近い部分は曲りなりにも水田として耕作の目的に供せられており、養鯉池と目される部分も容易に水田として復旧し、現に耕作せられている点等より見るときは、それが本件買収計画樹立の当時本来の農地としての性格を失つてしまつたものとは認められないのであるが、一方又本件土地の買収計画樹立後における被告長谷川等の前記耕作関係を見ると、それは別段法律上の権原に基いたものでなく、いわば耕作することを事実上黙認されていたに過ぎず、本件土地全体から考察してやはり県の養鯉場としての使用が主眼であつたのであるから、農地とはいえ小作地でないこと自創法第二条第二項の規定に徴し明かであるといわなければならい。

しかしながら本件土地が農地としての性格を失つていないこと前認定のとおりであるとするなら、前述のように外見上極めて不明瞭であつたと思われる本件土地の耕作関係の実態を見誤り、金田一村農地委員会が前記のように本件土地を小作地と誤認して買収計画を立て、被告岩手県知事がこの計画を踏襲して本件買収処分をなしたとしても、それは重大且つ明白な違法を犯したものとは到底考えられない。されば右誤認を取消訴訟の対象とするなら格別、その為に本件買収処分が当然無効になるとは解し難いから被告岩手県知事に対する原告の請求はこの点において理由がない。

果してそれなら本件買収処分の無効を前提として本件土地につきなされた前記保存乃至所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告の爾余の被告等に対する請求も亦理由なきものである。よつて原告の請求は全部これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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